公開日:2026年8月22日
生成AIの活用が広がり、人事評価に関わる業務でもAIを利用できる場面が増えています。
目標設定を支援する。
評価コメントを作成する。
1on1や実績情報を整理する。
人材データを分析し、評価や昇格の判断材料を提示する。
ただし、これらをすべて「AI人事評価」とひとくくりにすると、AIが何をしているのかが見えにくくなります。
AIに評価コメントを書かせることと、AIに人を評価させることは同じではありません。
そして、AIを人事評価に利用する際には、もう一つ重要な前提があります。
多くの企業には人事評価制度があります。
しかし、その制度に対して実際に一人ひとりを評価するとき、
その人の何を見ているのか。
何を評価の根拠にしているのか。
その根拠を、どのように評価へ結びつけているのか。
ここまで明確になっているとは限りません。
本記事では、AI人事評価を「評価業務の支援」「評価材料の整理」「評価判断の支援」の3段階に分け、現在どこまで活用が進んでいるのか、AIを利用する際に何を整理する必要があるのかを解説します。
この記事でわかること
- AI人事評価とは何か
- AIによる評価コメント作成と、人を評価することの違い
- 人事評価で現在AIが使われている領域
- AIが評価判断に近づくほど何が必要になるのか
- AI人事評価における公平性・バイアス・説明責任
- AIを導入する前に整理しておきたい評価プロセス
AI人事評価とは
AI人事評価とは、人事評価に関わる業務や判断にAIを活用することを広く指します。
ただし、現在広がっているのは、AIが社員の最終評価を自動的に決める使い方だけではありません。
パーソル総合研究所の「人事部トレンド定量調査2026」では、「人事評価・タレントマネジメント」でAIを活用している割合は24.4%でした。
具体的な利用例として挙げられているのは、目標設定の壁打ち、評価フィードバック文面の作成・添削、評価会議資料の要約などです。
つまり、現時点では人を自動評価するよりも、既存の評価業務を支援する領域からAI活用が広がっています。
経団連が2026年4月に公表した「HR部門におけるAI等の活用に関する報告書」でも、調査対象75社のうちAIを「評価」で活用している企業は13社でした。
採用25社、労務管理22社、人材育成20社などと比べても、評価領域でのAI活用はまだ限定的です。
そのため、「AI人事評価」を考える際には、まずAIが評価プロセスのどこに入っているのかを分けて考える必要があります。
「評価コメントを書く」と「人を評価する」は違う
AI人事評価は、大きく3つの段階に分けると理解しやすくなります。
| 段階 | AIの使い方 | 具体例 | AIの役割 |
|---|---|---|---|
| 第1層 | 評価業務の支援 | 評価コメント、目標文の作成・推敲 | 書く・整える |
| 第2層 | 評価材料の整理 | 実績、スキル、1on1、過去評価などの集約・要約 | 情報を整理する |
| 第3層 | 評価判断の支援 | スコア、評価案、昇格候補などの提示 | 判断材料を作る |
第1層では、評価そのものは基本的に人が行います。
人が判断した評価や確認した事実をもとに、AIが文章を作成したり、表現を整えたりします。
第2層では、AIが評価に利用する情報そのものを扱います。
さらに第3層では、評価基準や人材データをもとに、AIが評価案や昇格候補などを提示するところまで入ってきます。
AIが判断に近づくほど重要になるのが、
何を見て、何を根拠に、どのように評価しているのか
という評価プロセスです。
例えば、評価制度に「主体性」という項目が定義されていても、それだけではAIは評価できません。
どのような行動を主体性とみなすのか。
その行動を何から確認するのか。
確認した事実をどのように評価尺度へ結びつけるのか。
こうした評価の過程まで一定程度明確になって、初めてAIが扱える評価ロジックになります。
採用においても同様に、抽象的な能力や人物像をそのまま評価するのではなく、期待役割や成果場面、確認する経験・スキル・行動特性などへ分解する必要があります。
関連記事:採用要件のつくり方|期待役割・成果場面から経験・スキル・行動特性を構造化する方法
第1層|評価コメント・目標設定をAIで支援する
現在、比較的取り入れやすいのが、評価に伴う作業をAIで支援する使い方です。
例えば、
- 評価コメントの下書きを作る
- コメントの表現を整える
- 目標設定の文章を具体化する
- フィードバック文面を作成する
- 評価会議用の資料を要約する
といった業務です。
カオナビは2025年12月、AIが目標設定や人事評価を支援する「AI目標・評価アシスト」の提供を開始しました。
同社によると、目標設定や人事評価の文章作成などをAIが支援し、評価業務の負荷軽減や質の向上を目指しています。
この段階では、AIは主に**「評価を書く」作業を支援している**と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、上司が「B評価」と判断したうえで、その理由をAIに整理させるのであれば、評価判断そのものをAIへ任せているわけではありません。
生成AIが得意とする文章作成や要約を利用できるため、比較的導入しやすい領域です。
ただし、AIが自然な評価コメントを書けることと、その評価が適切であることは別です。
入力された事実や評価自体が曖昧であれば、AIは曖昧な内容をもっともらしい文章へ整えてしまう可能性もあります。
そのため、文章の完成度だけではなく、そのコメントが何を根拠にしているのかを確認することが重要です。
第2層|評価材料をAIで整理・分析する
次に考えられるのが、評価に使う情報をAIで集約・整理する使い方です。
人事評価では、評価者が参照できる情報は一つではありません。
例えば、
- 目標と実績
- 過去の評価
- スキル情報
- 1on1の記録
- 本人による振り返り
- 上司による観察
- 360度フィードバック
- プロジェクトや業務の記録
などがあります。
こうした情報を人がすべて確認するには時間がかかります。
AIが複数の情報から事実を検索・要約し、「この社員についてどのような情報が確認できるか」を整理できれば、評価者が判断するための材料を集めやすくなります。
ここで重要なのは、情報を整理することと、その情報を評価することを分けることです。
例えば、
今期、3つのプロジェクトを完了した
という事実をAIが抽出することと、
3つのプロジェクトを完了したため、成果評価はAである
と判断することでは、AIが担う役割が異なります。
前者は評価材料の整理です。
後者では、その事実と評価基準を結びつけるための判断が加わっています。
人事評価でAIを活用するほど、事実と評価を分けて扱うことが重要になります。
第3層|AIが評価案や昇格候補を提示する
AIがさらに評価判断へ近づくと、評価スコアや評価案、昇格候補などを提示する使い方が考えられます。
経団連の報告書では、IBMグローバルの「HiRo」という事例が紹介されています。
IBMでは2023年、昇進者の決定プロセスをAIで支援する仕組みを導入しました。
AIエージェントが、人事システム、パフォーマンス履歴、過去の評価、スキルなどの社員データを収集し、昇進基準をもとに候補者を提示します。
ただし、AIが昇進者を最終決定するわけではありません。
提示された情報や候補を参考に、最終的にはマネージャー自身が判断します。
経団連によると、この仕組みによって四半期ごとの昇進プロセスは10週から6週へ短縮され、人事部門が行っていたサポート業務の約85%を削減できたと推計されています。
この事例は、AI人事評価を考えるうえで示唆的です。
AIが情報を集める。
基準と照合する。
候補を提示する。
人が根拠を確認して最終判断する。
AIの役割を判断支援まで広げながら、最終的な意思決定は人が担っています。
一方、この段階までAIを利用するためには、そもそも「昇進に値する」とは何を意味するのかが明確になっている必要があります。
評価基準や評価根拠が曖昧なままであれば、高度なAIを導入しても、安定した評価を行うことは難しくなります。
採用段階でAIが評価や判断支援へ入る際にも、同じ問題が生じます。
関連記事:AI選考とは?書類選考・適性検査・面接での活用と設計ポイント
AI人事評価に期待される「公平さ」は自動では生まれない
人事評価には以前から、評価者によるばらつきや主観という課題があります。
そのため、AI人事評価には「人より客観的に評価できるのではないか」という期待があります。
Job総研が社会人391人を対象に実施した「2025年 人事評価の実態調査」では、AIによる評価で期待する点として「公平で客観的な判断」が48.3%で最多となり、「上司の主観を減らす」が45.8%で続きました。
一方、AIによる人事評価に「不安がある」とする回答は51.2%。上司とAIのどちらに評価してほしいかという質問では、68.7%が上司側を選んでいます。
つまり、
人による評価の主観には不満がある。
しかし、AIだけに評価されることにも不安がある。
という状況です。
AIによって評価者の主観を減らせる可能性がある一方で、
- AIは自分の仕事を正しく理解できるのか
- 数字に表れない工夫や貢献を評価できるのか
- どの情報から判断されたのか
- 過去の評価に含まれる偏りを引き継がないか
といった別の問題が生まれます。
AIを使うことと、評価が公平になることは同じではありません。
AIが候補者を評価する「AI面接」でも、評価対象、評価方法、評価根拠を確認することが重要です。
関連記事:AI面接ツール4社を比較|SHaiN・VARIETAS・PeopleX・タレスカの違い・選び方【2026年版】
AI人事評価で注意したい4つのこと
1. 過去の評価データに含まれるバイアス
AIが過去の人事評価を学習・参照する場合、そのデータ自体に偏りがないかを確認する必要があります。
過去の評価に不適切な判断や偏りが含まれていれば、AIがその傾向を再現する可能性があります。
AIによる評価だから人間より公平だと考えるのではなく、AIが何を学習・参照しているかを確認することが重要です。
2. なぜその評価になったのか説明できるか
人事評価では、評価結果だけでなく、その理由も重要です。
「AIがA評価と判定した」
だけでは、本人へのフィードバックにも、評価会議にも使いにくいでしょう。
どの事実を参照したのか。
どの評価項目と結びつけたのか。
なぜその評価案になったのか。
AIを判断支援へ使うほど、評価根拠を人が確認できることが重要になります。
3. 従業員に説明できるか
AIを評価に利用する場合、技術的に可能かどうかだけでなく、従業員がどう受け止めるかも考える必要があります。
経団連は、特に「モニタリング」「評価」「予測」へのAI利用について、不当な扱いや権力の行使と受け止められる可能性があるとして、社員への十分な説明と理解を得ることの重要性を指摘しています。
少なくとも、
- 何のためにAIを使うのか
- どのデータを使うのか
- AIの結果をどこまで評価へ利用するのか
- 最終判断を誰が行うのか
は説明できる状態にしておく必要があります。
4. AIだけで不利益な判断を決めない
AIを評価や処遇に利用する場合には、AIによる出力だけで不利益な判断を決定するのではなく、人が確認し、判断するプロセスを設けることが重要です。
AIを利用しても、人事評価に対する企業側の責任がAIへ移るわけではありません。
AIの評価や提案をどのように人が確認し、最終判断へつなげるのかまで含めて設計する必要があります。
AI人事評価を導入する前に確認したいこと
AI人事評価を検討するとき、最初にAIツールを比較する必要はありません。
まず、自社で一人ひとりをどのように評価しているのかを整理する必要があります。
1. AIに何を任せるのか
評価コメントを書くのか。
評価材料を整理するのか。
評価案を提示するのか。
昇格候補まで提示するのか。
同じ「AI人事評価」でも、AIに任せる範囲によって必要な設計は大きく変わります。
2. 一人ひとりの何を見ているのか
人事評価制度に評価項目が定められていても、実際に一人ひとりの何を見て評価しているのかが明確とは限りません。
成果なのか。
行動なのか。
能力なのか。
役割遂行なのか。
周囲への貢献なのか。
制度上の評価項目だけではなく、実際の評価対象を整理する必要があります。
3. 何を評価根拠にしているのか
次に、その評価を何によって確認しているのかを整理します。
例えば、
- 業績や実績
- 上司による観察
- 本人の振り返り
- 1on1の記録
- 360度フィードバック
- スキルデータ
- 業務記録
などです。
AIに評価を支援させるのであれば、どの情報を評価根拠として利用してよいのかを決める必要があります。
4. 根拠をどのように評価へ結びつけているのか
ここが特に重要です。
評価制度に「主体性」「成果」「協働」といった項目があったとしても、
どの事実をその項目の根拠とし、なぜその評価になるのか
が曖昧であれば、評価は評価者の解釈に大きく依存します。
AIを判断支援まで利用する場合には、
一人ひとりの何を見て、何を根拠にし、その根拠をどのように評価へ変換するのか
を一定程度明示する必要があります。
5. AIの結果を誰が確認するのか
AIが評価案を出したあとに、誰が確認するのかも決めておく必要があります。
直属上司なのか。
人事なのか。
評価会議なのか。
また、AIと人の評価が異なった場合に、どのように扱うのかも運用上の重要なポイントです。
6. 従業員に説明できる状態になっているか
AIの利用範囲、参照するデータ、最終判断者、データの保存や二次利用などについて、従業員へ説明できることも重要です。
単に「AIを使っています」と伝えるのではなく、AIが評価プロセスのどこに入り、どこは人が判断しているのかを説明できる状態にしておく必要があります。
まとめ|AIに評価を任せる前に、評価の仕組みを明確にする
AIは、人事評価のさまざまな工程で利用できるようになっています。
評価コメントを書く。
評価に必要な情報を集める。
複数のデータを整理する。
評価案や昇格候補を提示する。
今後、AIが人事評価に関与する範囲はさらに広がっていく可能性があります。
ただし、その前提として整理しておきたいことがあります。
多くの企業には、人事評価制度があります。
しかし、評価制度があることと、その制度に対して一人ひとりをどのように評価しているかが明確であることは、同じではありません。
一人ひとりの何を見ているのか。
何を評価の根拠にしているのか。
その根拠を、どのように評価へ結びつけているのか。
ここが曖昧なままであれば、人による評価も評価者の暗黙的な判断に依存しやすくなります。
AIに評価を支援させようとしても、何を入力し、何を根拠に、どのように判断させるのかを定義できません。
AI人事評価を考えるときに、最初に問うべきなのは、
「AIは人を評価できるのか」ではなく、「自社では、一人ひとりの何を、何を根拠に、どのように評価しているのか」
なのかもしれません。
その評価プロセスを明らかにしたうえで、文章作成をAIに任せるのか、評価材料の整理まで任せるのか、それとも判断支援まで利用するのかを決める。
AI人事評価の設計は、そこから始まります。
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